Technical

2025年06月20日

テクニカルコラム

テクニカルコラムNo.24 汎用プラスチックのリサイクル概況とPE、PPのケミカルリサイクルを実現する複合金属酸化物の可能性

Ⅰ. はじめに

脱炭素社会の実現に向け、プラスチックの資源循環が重要視されています。特に、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)といった汎用プラスチックは、生活や産業において大量に使用され、その廃棄物処理が大きな課題となっています。これらプラスチックのリサイクルとしては、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリカバリーが採用されています。ただし、いずれも二酸化炭素(CO₂)の排出を伴います。化石燃料由来のプラスチックでは、そのリサイクル過程でエネルギー消費に起因するCO₂排出が避けられません。今回は、持続可能な社会の実現に向けて、排出されたCO₂の効率的な回収と再利用、各プラスチックのリサイクルの現状を解析するとともに、特にPEPPのケミカルリサイクルにおけるアルミニウムおよびジルコニウムを基盤とした複合金属酸化物触媒の可能性について紹介します。

Ⅱ. 二酸化炭素の回収や貯蔵の取り組み

PETPEPPなどの汎用プラスチックは、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、あるいは燃焼によるサーマルリカバリーのいずれを行っても、二酸化炭素(CO₂)が発生します。そのため、地球温暖化などの環境負荷を抑えるには、社会全体でCO₂排出を削減し、排出された分を吸収・回収して差し引きゼロにする「カーボンニュートラル」の実現が重要です。これは、国際的にはパリ協定に基づき、CO₂排出量と吸収・除去量のバランスをとる「実質ゼロ」を目指す動きとして各国で進められています。発生した二酸化炭素の回収や貯蔵については、現在も研究が進められています。例えば、回収方法の技術及び文献をまとめた報告として、CO2 Capture: A Comprehensive Review and Bibliometric Analysis of Scalable Materials and Sustainable Solutionsがあり、モノエタノールアミンと二酸化炭素によるカルバメートの生成や活性炭、ゼオライト、MOFと二酸化炭素との弱い分子相互作用を利用した物理吸着、水酸化ナトリウム等の溶液を使用して炭酸塩を生成するアルカリ吸着法等の研究事例が報告されています。また、回収したCO₂は、テクニカルコラムNo.1第十三回 マツモトファインケミカル技術セミナー 二酸化炭素を原料とした有機化学物質の合成における有機金属化合物触媒の利用で紹介したように、ウレタンの原料等として使用する研究も続けられています。

Ⅲ. 汎用プラスチック PET、PE、PPのリサイクルについて

Ⅲ-1. PETのリサイクル

PET(ポリエチレンテレフタレート)は、飲料ボトルや繊維用途として広く使用されており、回収・再生の仕組みが比較的整っている汎用プラスチックです。特に日本においては、容器包装リサイクル法のもとでボトルtoボトル(BtoB)リサイクルが進展しており、マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの両輪での取り組みが進んでいます。PETは化学構造上、分解が比較的容易で再重合も可能であり、再利用性の高い素材とされています。本節では、エネルギー使用量、およびCO₂排出量に基づいたリサイクルの有用性評価結果をご紹介します。

<表1. PETのリサイクルにおけるエネルギー使用量とCO₂排出量>

 

エネルギー使用量

MJ/kg

CO₂排出量

kg/ CO₂kg

新品PET製造

80

2.8

マテリアルリサイクル

30

1.1

ケミカルリサイクル

45

1.5

*参考資料:

Ragaert, K., Delva, L., Van Geem, K., 2017. Mechanical and chemical recycling of solid plastic waste. Waste Management, 69, 24–58.

PasticsEurope, 2021. Eco-profiles of the European Plastics Industry: Polyethylene Terephthalate (PET). PlasticsEurope, pp.16–20.

1より新品PET製造するよりも、マテリアルリサイクル、またはケミカルリサイクルを行った方が、エネルギー使用量、CO₂排出量が少なく、リサイクルが有効であることがわかります。そのため、202312月末時点での日本国内のPETリサイクル率85%と高く、リサイクル量としては415(千トン)となっています。

Ⅲ-2. PE,PPのリサイクル

2022年の国内におけるリサイクル状況をまとめると以下表2のようになります。

<表2. PEPPのリサイクル状況>

 

PE

PP

年間排出量(千t/年)

20004000

20003000

マテリアルリサイクル、

ケミカルリサイクル量(千t/年)

500700

500

リサイクル率(%)

12.5~25.0

16.725.0

*参考資料

令和4年度補正資源自律に向けた資源循環システム強靭化実証事業委託費 (サーキュラーエコノミー実現に向けた廃プラスチックの実態調査) 報告書

リサイクル率が低い理由としては、マテリアルリサイクルにおいて3つの問題が指摘されています。それが以下の3点です。

① PEPP製品が多種多様であり形状や用途が異なる。
② 異物混入や汚染の問題が生じやすい。
③ 再生したPEPPの品質が低く、食品容器等の高い品質が担保できない。

また、ケミカルリサイクルを行うにも、C-C結合を分解するために多くのエネルギーが必要となるためCO₂排出量が増えると考えられています。また、新技術や新設備が必要となるため、初期投資や運用コストが高いといった問題があります。そのため、PEPPは、埋め立て、または燃焼して熱エネルギーとして回収(サーマルリカバリー)する方法がとられており、上述の参考資料ではサーマルリカバリー率は約60%と示されています。サーマルリカバリーで得られた熱エネルギーは、発電、地域暖房、給湯、工業用蒸気供給等に使用されていますが、今回、PEPPを燃焼させたエネルギーを使用した再生PETの製造について考察してみます。


Ⅲ-2-1. PE、PPの燃焼エネルギ―を使用した再生PET製造

<表3. PEPPの燃焼による発熱量と再生PET製造時のCO₂排出量>

プラスチックスの

種類

燃焼による発熱量(MJ/kg

再生PET1kg製造する際のCO₂排出量(kg

PE

46

4.5

PP

44

4.5

PETのケミカルリサイクルに必要エネルギー:45 MJ/kg*参考資料

*参考資料

Hopewell, J., Dvorak, R., Kosior, E., 2009. Plastics recycling: challenges and opportunities. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences, 364(1526), 2115–2126.

3にはPEPPの燃焼によって発生した発熱量とPETのケミカルリサイクルに必要なエネルギーを比較しています。その結果は、ほぼ1:1となっており、PEPPの燃焼によって発生した発熱量を再生PETの製造に使用することは、交差エネルギー支援型リサイクルとして有効であると考えられます。しかし、CO₂の発生量を比較すると、1kgの新品PETを製造する際の二酸化炭素発生量は約2.8kgに対してPEまたはPPを燃焼させて1kgの再生PETを製造する際には、約4.5kgCO₂の発生量となります。そのため、この方法においては、Ⅱ項で述べたCO₂の回収、貯蔵、利用が必要と考えます。

Ⅲ-3. 食品容器等への再利用を可能にするPE、PPのケミカルリサイクルの可能性

-2で述べたようにPEPPのマテリアルリサイクル、ケミカルリサイクルは困難ですが、食品容器等の高い品質のPEPPを得る方法としては、ケミカルリサイクルが適していると考えます。PEPPの構造は結合エネルギーが高いC-C結合を分解するには大きなエネルギーが必要である一方、分解反応に必要なエネルギーを下げ、二酸化炭素の発生量を抑えることでケミカルリサイクルを実現できる可能性があります。この方法の一つとして、触媒の使用が考えられます。ポリエステルの分解方法として、ルイス酸であり有機金属化合物を使用した事例をテクニカルコラムNo.18にてご紹介しました。ただ、C-C結合のような高い結合エネルギーを有する結合の分解に、そのまま応用するのは難しいのではないかと考えます。ここで、異なる触媒技術の検討が必要になります。

Ⅲ-4. 複合金属酸化物を触媒としたPE、PPのケミカルリサイクルの可能性

PEPPといった難分解性プラスチックのケミカルリサイクルにおいて、Zr–Al系酸化物を基盤とする触媒が近年注目されています。Zr–Al系酸化物は、それぞれの元素が持つルイス酸性およびブレンステッド酸性の相乗効果により、C–C結合の活性化と分解選択性の両立が可能であると考えられます。実際の研究例として、BEA型ゼオライトにZrAlをドープした触媒は、従来のBetaゼオライトと比較してLDPEの分解性能が向上し、特にZr種によって導入されたルイス酸点がクラッキング反応を加速させることが明らかとなっています(Design of Zr- and Al-Doped *BEA-Type Zeolite to Boost LDPE Cracking Performance, ACS)。

Ⅲ-4-1. 活性点の均一性を実現する複合金属酸化物の前駆体

前項で紹介したDesign of Zr- and Al-Doped *BEA-Type Zeolite to Boost LDPE Cracking Performance, ACSでは、前駆体としてZr(OnBu)₄(当社製品名:ZA-65)やAl2(SO4)3·16H2Oが使用されていました。複合無機金属化合物の合成においては、単純に酸化ジルコニウムと酸化アルミニウムを混合、焼成して合成する固相法がありますが、触媒として使用する際には、活性点の均一性も重要となります。固相法では、各金属の分布はまばらになり、均一化は難しいと考えられます。そのため、文献記載のようなZr(OnBu)₄等の“液体”の有機金属化合物を混合、溶解させ均一溶液を作った上で複合金属酸化物を合成する必要があると考えます。

Ⅲ-4-2. 複合金属化合物の前駆体に適している化合物は何か

Zr(OnBu)₄のような金属アルコキシド化合物は、空気中で安定な化合物の中では、低い温度で酸化物になりやすい化合物です。そのため金属酸化物を合成する原料としては化学構造上、適していると考えます。しかし、加水分解重縮合反応が非常に速く進み、その速度は金属の種類によって多様であることが知られています。当社でAL-3001Al(O sec-Bu)3)とZA-65ZrOnBu4)の加水分解重縮合反応性を比較した際、(速)Al(O sec-Bu)3>>ZrOnBu4(遅)の結果が得られています。これらのアルコキシド化合物は、結合しているアルコキシドの分子量が比較的小さいため、空気中で安定な化合物の中では、低い温度で酸化物になりやすい化合物です。しかし、加水分解重縮合反応の速度が異なることから、Zr–O–Al構造だけでなく、Zr–O–ZrAl–O–Alといった均一な構造も多く生成される可能性が高いと考えられます。このような不均一な構造になると、触媒としての活性点が限定され、主にブレンステッド酸性点に依存することとなり、酸性点のバランスが偏ることで、触媒活性の低下につながると考えられます。この加水分解重縮合反応速度をコントロールするためには、各金属のキレート化合物を使用する方法があると考えます。当社製品においては有機ジルコニウム化合物であれば、アセチルアセトンキレートであるZC-540やアセト酢酸エチルキレートであるZC-580、有機アルミニウム化合物であればAL-3220等の使用が考えられます。これら化合物は、アルコキシド化合物とは異なり、キレート化によって金属に対して配位結合を有していることから、反応の制御がしやすくZr–O–Al構造を形成させやすいと考えます。また、複合金属酸化物を合成させるだけではなく、触媒としての反応点を増やす観点もあります。例えば、反応するための表面積を増やすためにナノポーラスな金属酸化物を使用し、ゾルゲル反応で得られるZr–O–Al構造を持つ、複合金属酸化物を担持させた化合物を合成することも一つの方法と考えます。

Ⅳ. おわりに

汎用プラスチックの持続的な資源循環を実現するためには、マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル、サーマルリカバリーのそれぞれの技術を最適化するだけでなく、CO₂の回収と貯蔵技術を組み合わせた包括的なアプローチが求められます。特に、混合廃棄物や汚染された汎用プラスチックに対するケミカルリサイクル技術の進展は重要な役割を果たすと考えます。当社の有機金属化合物 オルガチックスは、今回ご紹介したPEPPのケミカルリサイクルを実現する触媒である“複合金属酸化物”の前駆体として使用できる可能性が高いと期待できます。本観点も踏まえ、今後開発を進めて参ります。

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