Technical

2022年06月06日

テクニカルコラム

テクニカルコラムNo.1 【二酸化炭素を原料とした有機化学物質の合成における有機金属化合物触媒の利用】

テクニカルコラムでは、当社製品に関係する技術のご紹介を行ってまいります。

20201127日に産総研より「CO2とケイ素化合物からポリカーボネートやポリウレタンの原料を合成」との研究成果が発表されました。詳細は以下のリンク先をご参照ください。

リンク先:産総研の記事ページへ

 近年、カーボンリサイクルの観点から、二酸化炭素を炭素資源として再利用する化学反応が注目されています。

 今回の技術通信では、二酸化炭素を原料とした有機化学物質合成の内、特に有機金属化合物を触媒とした事例を中心として概要を述べていきたいと思います。

Ⅰ. 二酸化炭素を原料とした有機化学物質の合成における有機金属化合物の触媒事例

 産総研より発表された研究成果の反応は、二酸化炭素とテトラエトキシシランを反応させ、ジエチルカーボネートを生成したものです。この反応は、有機金属化合物を”触媒”として使用して二酸化炭素から有機化合物を得ています。今回示された物質以外への展開も期待でき、カーボンリサイクルの観点から非常に有用な成果と考えます。

本発表では触媒として、ジルコニウムテトラエトキシドといった有機金属化合物の“ジルコニウムアルコキシド”を使用していました。また、他に、2019年の日本接着学会誌の「二酸化炭素を原料とするウレタン合成」では、アニリンと二酸化炭素との反応による芳香族ウレタンの合成における触媒としてチタンテトラメトキシドといった有機金属化合物の“チタンアルコキシド”を使用した例もありました。本内容の詳細は以下のリンク先をご参照ください。

リンク先:日本接着学会誌 Vol.55 No.5(2019)「二酸化炭素を原料とするウレタンの合成

このように二酸化炭素を使用した反応においては、チタンやジルコニウム化合物等が触媒として機能するようです。

 

Ⅱ. アルコキシドとは何か。その反応性の問題

今回の発表ではチタンやジルコニウムアルコキシド化合物が使用されていました。これら化合物は、金属原子(Ti、Zr)にアルコキシ基(-OR)が結合しています。この化合物は、図1に示すような反応式に従い、空気中の水とも非常に速く反応し、生成される(水)酸化チタンは触媒活性を失います。特に反応性が高い化学構造的に炭素のつながりが小さい化合物の場合、水との接触を避ける必要があり、ハンドリング性(使いやすさ)が悪い場合があります。

<図1 チタンアルコキシドと水との反応(加水分解反応)>

 

Ⅲ. 触媒活性と使いやすさを両立するキレート化とは

化学結合の中に、”配位結合”と呼ばれるものがあります。金属は、この配位結合によって錯体を形成することができ、カニの手のような構造を持つ”キレート”と呼ばれる化合物をつくることができます。その構造をチタンやジルコニウムの例で示すと以下図2のようになります。

<図2 チタンキレート、ジルコニウムキレート>

 

このような、キレート化合物の特長は、チタンやジルコニウムアルコキシドに比べて水に対する反応性が安定化することがあげられます。この水との反応性の差については、以下の動画をご参照ください。左のサンプルがチタンアルコキシド、右のサンプルがチタンキレートになります。これらに水を加えたときの反応性の差がわかるかと思います。

<チタンアルコキシドとチタンキレートの加水分解反応>

 

キレート化合物は反応性が低いため、触媒活性としてもアルコキシド化合物に比較して低くなることが予想されます。そのため、以下のように反応条件を変更する必要があると考えます。 

  1. 反応温度を高くする。
  2. 反応時間を長くする。

 反応条件の変更は必要となりますが、触媒活性と使いやすさの両立の観点から、キレート化合物の使用は一つの選択と考えます。 今回は、二酸化炭素を炭素原料とした有機化学物質の合成における触媒の利用についてご紹介しました。上記の通り、チタンやジルコニウム化合物は触媒として有用ですが、その種類によっては、使いにくい面もあります。アルコキシドやキレートといった有機金属化合物をご使用の場合、使用環境に応じて触媒を選択することが必要かと考えます。

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