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2025年07月11日
機能性無機フィラーの分散性向上等においてシランカップリング剤やチタンカップリング剤等のカップリング剤は重要な役割を果たします。特に、チタンカップリング剤は、シランカップリング剤とは異なる特性を示し、多様な無機フィラーに対して分散性向上効果を発揮します。今回は、チタンカップリング剤の構造、機能、処理方法を中心に、シランカップリング剤との違いや分散性向上効果についてご紹介します。
シランカップリング剤やチタンカップリング剤は、有機材料と無機フィラーの界面を結合させることができる分子です。一般的には、無機フィラー表面に存在する水酸基等の官能基とカップリング剤の反応基であるアルコキシ基が反応して結合します。一方、有機材料とはカップリング剤に存在するアミノ基、エポキシ基、アクリル基、ステアリル基等が反応、または有機材料と相互作用することによって、無機フィラーの分散性の向上等を付与することができます。
チタンカップリング剤とシランカップリング剤との比較については、当社HPのお役立ち情報「チタンカップリング剤について」でご紹介していますが、今回は、文献情報等を含め、もう少し深く考察して比較をします。
チタンカップリング剤は、Ti-Oの結合を有した構造であり、シランカップリング剤は、Si-C結合が構造中に含まれています。特にシランカップリング剤の場合、有機材料と相互作用する官能基はSi-C結合で形成されています。この違いについて結合エネルギーから考察します。Si-Cの結合エネルギーは、約360 kJ/mol であり、Ti-Cの結合エネルギーを計算した結果、約167 kJ/mol(計算方法:MP2/def2-TZVP、基底関数:def2-TZVP)となります。例えば、有機金属化合物におけるTi-C結合とSi-C結合について水との反応を考えてみますと、Ti-C結合は結合エネルギーが低いことから、速やかに水と反応して加水分解すると考えられます。一方、Si-C結合は結合エネルギーが高いことから、水との反応はせず、その構造を維持すると考えられます。そのため、チタンカップリング剤としては、Ti-C結合より安定なTi-O結合を持つ化合物が使用されており、シランカップリング剤では、Si-C結合を有する化合物が使用されています。
シランカップリング剤、チタンカップリング剤はともに、無機フィラー表面に存在する水酸基等と反応します。シランカップリング剤のSi-ORは、水酸基と脱アルコール反応を行うことで共有結合を形成することは可能ですが、その反応性は低いため、加水分解によって活性なSi-OHを生成した上で反応させます。一方、チタンカップリング剤のTi-ORは、Ti元素のルイス酸性の影響もあり、水酸基との脱アルコール反応が非常に速く進行します。
A review study on coupling agents used as ceramic fillers modifiers for dental applications (2023)には、シランカップリング剤はシリカを含む材料の表面処理に有効であるのに対し、チタン系カップリング剤は湿潤環境下での安定性が高く、他の無機フィラーとの結合に優れるとの記述があります。シランカップリング剤は、Si-ORが空気中の水によって加水分解されてSi-OHとなり、無機フィラー表面の水酸基と脱水反応によってSi-O-Si結合を形成します。無機フィラーがケイ素を含むシリカやガラス等の場合、無機フィラー表面は、Si-OHとなります。シランカップリング剤から発現するSi-OHとシリカやガラス等の表面のSi-OHは構造が同一であるため、Si-O-Si構造を作りやすいと考えます。一方で、ケイ素を含まない無機フィラーの場合は、シランカップリング剤から発現するSi-OHと構造が異なるため、無機フィラー構成元素のMetalとの間でSi-O-Metalの構造が取りにくいことが考えられます。故に、シランカップリング剤はケイ素を含む無機粒子の表面処理に好適に使用できると考えられます。一方、チタンカップリング剤は、無機フィラー表面の陽イオン(H⁺)とTi-ORが直接反応することから、シランカップリング剤に比べてより広範な無機フィラーに対応可能と考えられます。チタンカップリング剤によって表面処理されやすい無機フィラーとしては、例えばアルミナ、チタニア、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられます。
カップリング剤で表面処理された無機フィラーと分散媒との相性は、表面処理後の粒子表面の表面エネルギーと、分散媒の表面張力の関係に影響されます。表面エネルギーや表面張力を直接測定することは難しいため、物質間の相性を数値化できる溶解度パラメーター(sp値)がよく用いられます。分散媒の溶解度パラメーターに近い値を持つ官能基を有するカップリング剤を選択することで、無機フィラーの表面性質を調整し、分散媒との相溶性を高めて分散性を向上させることができます。例えば、シランカップリング剤であれば、γ-アミノエチルアミノプロピルトリメトキシシランが良く使用されます。アミノ基は極性が高く、親水性となるため、このシランカップリング剤で無機フィラーを処理した場合は、水やアルコールといった高極性の溶剤に対して分散効果を得ることができます。チタンカップリング剤も同様であり、アミノ基や乳酸基等の親水性基を有するチタンカップリング剤で表面処理した無機フィラーは、水やアルコールといった高極性の溶剤に対して分散効果を発現します。また、ステアリル基等の疎水性の長鎖アルキル基を有するチタンカップリング剤で表面処理した無機フィラーは、炭化水素等の低極性の溶剤に対して分散硬化を発現します。
カップリング剤による無機フィラーの表面処理は、一般に以下の3つの方法で実施されます:湿式法、乾式法、インテグラルブレンド法です。
カップリング剤を有機溶媒または水に溶解し、無機フィラーと混合する方法で、均一な表面処理が可能です。処理後、ろ過・乾燥工程が必要ですが、無機フィラー表面への吸着効率が高く、粒子間凝集を抑える効果があります。
カップリング剤を直接無機フィラーに混合し、加熱・混練することで反応を促す方法です。設備が簡易で処理コストが低く、量産に適していますが、処理の均一性や反応効率は湿式法に劣る場合があります。
無機フィラーと樹脂の混練工程中にカップリング剤を直接添加する方法です。製造工程の簡略化とコスト低減が可能であり、射出成形や押出成形などの樹脂加工プロセスと一体化できます。ただし、カップリング剤の分散状態や界面反応性に影響を与えるため、添加タイミングや混練条件の最適化が重要です。
無機フィラーに対するシランカップリング剤の添加量は、Web等で調べるといくつかの例を入手することが可能です。しかし、チタンカップリング剤の添加量については、Web等で調べても記述が見つかりません。そこで今回、数種類のチタンカップリング剤について化学構造の最適化を行った後に断面積を計算で求めた結果を用いた添加量の推定例を紹介します。
比表面積:無機フィラー1 gあたりの表面積(単位:m²/g)
無機フィラー質量:処理対象の無機フィラーの質量(単位:g)
M :チタンカップリング剤の分子量(g/mol)
NA:はアボガドロ定数(6.022×1023 /mol)
A: はチタンカップリング剤1分子あたりの断面積(nm²)
式1は、無機フィラーの表面全体を、カップリング剤の分子でぴったり1層分だけ覆うというモデルに基づいています。つまり、無機フィラーの比表面積と、チタンカップリング剤の断面積をもとに、必要なカップリング剤の量を計算しています。カップリング剤がどのくらい必要かは、以下の3つの要素に基づいて決まります。
1. 無機フィラーの比表面積
→ 無機フィラーの粒子が細かいほど、同じ質量でも表面積が大きくなり、多くのカップリング剤が必要になります。
2. 断面積
→ 断面積が小さい分子ほど、同じ面積をカバーするのにより多くのカップリング剤が必要になります。
3. 分子量とアボガドロ定数
→ 分子量(M)は、1モルあたりの質量(g)を表します。またアボガドロ定数は、1モル中に含まれる分子の数を示します。この2つを組み合わせることで、「1個の分子が何gか」を計算できます。
Ⅵ-2. 化学構造の最適化と断面積の計算について
式1でチタンカップリング剤の添加量を求めるには、チタンカップリング剤の断面積の情報が必要となります。断面積を求めるために、まず量子化学計算用の分子モデリングと編集を行うことができるオープンソースアプリケーションのAvogadoroと量子化学プログラムであるORCAを使用しチタンカップリング剤の化学構造の最適化とXYZ座標を作成しました。次に、得られたチタンカップリング剤の分子座標データ(XYZ形式)についてPythonスクリプトを用いて処理し、全原子の座標をXY平面に射影しました。具体的には、Z座標を無視してX–Yの2次元座標データに変換し、得られた2次元点群に対して凸包(convex hull)アルゴリズムを適用しました。これにより、分子を真上(Z軸方向)から見たときの外接多角形を構築し、その面積を計算しました。この凸包面積は、分子の「見かけの断面積」として定量的に評価できる指標であり、チタンカップリング剤の基材表面への被覆状態や濡れ性の推定に有用な物理量となります。当社製品のチタンカップリング剤について見かけの断面積を計算した結果を表1.に示します。
<表1. チタンカップリング剤の断面積計算結果>
製品名 |
化合物名 |
成分濃度 (wt%) |
分子量 |
見かけの 断面積 (nm²) |
チタンモノイソプロキシ トリイソステアレート |
77 |
957.41 |
0.70 |
|
チタンジイソプロキシ ビスアセチルアセトネート |
75 |
364.33 |
0.27 |
|
チタンジイソプロキシ ビスエチルアセトアセテート |
95以上 |
424.35 |
0.35 |
|
チタンジイソプロキシ ビストリエタノールアミネート |
79 |
462.45 |
0.33 |
|
チタンモノイソプロポキシトリアミノエチルアミノエタノレート |
70 |
416.43 |
0.36 |
|
チタンジヒドロキシ ビスラクテート |
44 |
260.05 |
0.22 |
|
チタンジヒドロキシ ビスラクテートアンモニウム |
41 |
294.13 |
1.03 |
得られたチタンカップリング剤の断面積と表1.の成分濃度を考慮して式1に代入し、無機フィラー100gあたりのチタンカップリング剤添加量を縦軸に、当該粒子の比表面積を横軸にプロットすると、以下の図1に示すグラフが得られます。
<図1. 無機フィラーの比表面積とチタンカップリング剤の添加量>
また、図1に示した無機フィラーの比表面積と当該粒子100gに対するチタンカップリング剤の添加量について近似式を求めると以下表2になります。
<表2. チタンカップリング剤の添加量と無機フィラーの比表面積に関する近似式>
チタンカップリング剤 |
近似式 |
y = 0.30x |
|
y = 0.30x |
|
y = 0.21x |
|
y = 0.29x |
|
y = 0.27x |
|
y = 0.44x |
|
y = 0.11x |
* x:無機フィラーの比表面積(m2/g)
y:無機フィラー100gに対するチタンカップリング剤の添加量(g)
このように化学構造から断面積を求めることによって、無機フィラーに対するチタンカップリング剤の添加量を求めることができます。ただし、計算結果は、無機フィラーの表面に単分子層を均一に形成するために必要な理論的最小量です。そのため、この計算結果で得られたチタンカップリング剤の添加量は「最小添加量」として考え、実験による確認を行った方が良いと考えます。このような算出法の応用として、例えば、無機フィラー表面についてチタンアルコキシド等を用いて酸化チタン膜で覆う等の検討における、当該化合物の最低添加量の計算が挙げられます。
当社製品のチタンカップリング剤であるオルガチックスTC-300(以下、TC-300)、同TC-800(以下、TC-800)を用いた湿式法によるアルミナの表面処理と分散媒に対する分散効果の確認を行った実験例を紹介します。アルミナの表面処理は以下図2に従い行いました。その結果を図3、および図4に示します。
図2にチタンカップリング剤を使用したアルミナの表面処理方法を示します。本方法は湿式法であり、TC-300は水、TC-800はトルエンで希釈した処理剤を調液した後に無機フィラーであるアルミナと混合し、ろ過、洗浄、乾燥工程を経て表面処理されたアルミナを得ました。
<アルミナ>
・中心粒径0.27μm、比表面積6.7㎡/g
<チタンカップリング剤>
・希釈溶剤・・・水(TC-300)、トルエン(TC-800)
・処理液濃度・・・1wt%、5wt%、10wt%、50wt%、100wt%
<図2. チタンカップリング剤によるアルミナの表面処理方法>
TC-300、またはTC-800で処理したアルミナを用いた、2-プロパノール、または流動パラフィンへの分散性確認結果を図3、図4に示します。
<分散性評価方法>
分散媒(溶剤)10mlに評価用試料(表面処理アルミナ)0.5gを加えて撹拌し、静置状態での沈殿(分散)状態を観察しました。
分散媒:2-プロパノール
<図3. TC-300を使用した結果>
分散媒:流動パラフィン
<図4. TC-800を使用した結果>
使用したアルミナの比表面積は6.7㎡/gであることから、100gのアルミナに対するチタンカップリング剤の最小添加量は、TC-300:0.74g、TC-800:2.0gになります。今回の実験では1.5gのアルミナを使用していることから、TC-300、TC-800はそれぞれ0.01g、0.03gが最小添加量となります。
図3に示すTC-300を用いた結果においては、アルミナ1.5gに対して1wt%に希釈したTC-300を30ml使用して処理を行ったところ、分散性が向上した結果が得られています。30ml中の処理液中のTC-300の量は0.3gとなり、最小添加量(計算値)に比べて30倍の量で処理されています。分散状態を見ると更に少量のTC-300の処理でも効果を発揮できるのではないかと考えられます。
一方、TC-800も同様に処理していますが、未処理と比較してTC-800の濃度が高くなるほど分散性の向上が認められています。1wt%のTC-800処理液で処理をした場合、最小添加量(計算値)に比べて10倍の量での処理となっています。処理液のTC-800濃度が高くなるほど良好な分散性が得られていることから、無機フィラー表面へのTC-800の反応性や吸着性能が当該粒子の分散性に影響を与えていると考えられます。
これらの結果から、計算値である最小添加量を予め把握することは、チタンカップリング剤添加量の基準設定に有効であると同時に、当該量が必ずしも実際の無機フィラーの表面処理に最適とは限らないことが分かります。最終的には分散性など、無機フィラーの表面処理を行った後に求める機能性を評価する実験を行い、最適処理量を実験値として求める必要があると考えます。
今回は、チタンカップリング剤とシランカップリング剤の化学構造、反応性、適用可能な無機フィラーの違いについて違いを解説しました。チタンカップリング剤は、ルイス酸性に起因する高い反応性を有し、シリカ以外の広範な無機フィラーにも適用できる点で、シランカップリング剤とは異なる優位性を持つことを述べました。また、オルガチックスシリーズとして展開されている複数のチタンカップリング剤について、化学構造の最適化および断面積の計算を行い、理論上の最小添加量を導出する手法を紹介しました。この定量的アプローチにより、無機フィラーとの界面設計や処方開発において、より合理的かつ効率的な設計が可能となります。今後は、これらの理論値に基づく予測値と、実際の分散性・物性評価結果からえら得る実測値との相関検証を進めることで、オルガチックスシリーズをはじめとするチタンカップリング剤の適用領域をさらに拡大し、無機材料の高機能化に貢献することを目指したいと考えます。
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