Technical

2024年10月25日

テクニカルコラム

テクニカルコラムNo.16 ペロブスカイト太陽電池の適用事例、並びに課題と技術的対策

Ⅰ. はじめに

ペロブスカイト太陽電池とは何か、また、酸化チタンを使用する場合の役割についてはテクニカルコラムNo.14に記載させていただいております。今回は、ペロブスカイト太陽電池の適用事例、並びに課題と技術的対策について解説します。ペロブスカイト太陽電池の適用事例

Ⅱ.ペロブスカイト太陽電池の適用事例

 本項では、ペロブスカイト太陽電池の適用事例をいくつかご紹介します。

Ⅱ-1.ガラス型ペロブスカイト太陽電池

 パナソニックホールディングスでは、ガラス型ペロブスカイト太陽電池の実サンプルを20241016日~18日に幕張メッセで開催されたCEATECで展示しています。ガラスのサイズにあわせた太陽電池層の形成や透過度も変えられるため、建材用ガラス やシリコン太陽電池では設置が困難である場所への適用が検討されています。

参照元:パナソニック ホールディングス、ガラス型ペロブスカイト太陽電池の大面積な実サンプルを初展示

Ⅱ-2. フィルム型ペロブスカイト太陽電池

横浜市では、横浜市庁舎アトリウムにてフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験を2024930日から開始しています。このフィルム型ペロブスカイト太陽電池は、東芝エネルギーシステムズが協力しており、発電された電力を用いてクリスマスツリーのLED電球を点灯させる実験を行うようです。

参照元:大面積フィルム型ペロブスカイト太陽電池の提供について

また、積水化学、コスモ石油、朝日エティックは、サービスステーションの屋根や事業所のタンク壁面に設置するフィルム型ペロブスカイト太陽電池の実証実験を開始しています。

参照元:【実証実験③】フィルム型ペロブスカイト太陽電池の特性を活かし、タンク壁面へ設置

Ⅱ-3.ペロブスカイト太陽電池のさらなる展開について

前述の適用事例も踏まえ、ペロブスカイト太陽電池の更なる展開について見解を述べてみたいと思います。

Ⅱ-3-1. 柔軟性を有し、かつ可視光発電が可能であることが適用範囲を広げている

ペロブスカイト太陽電池は、シリコン太陽電池では設置できなかった窓ガラス、壁、ドローン、自動車等に設置することが可能となります。また、ペロブスカイト結晶であるメチルアンモニウム鉛ハライドは、バンドギャップが1.5eVであることから可視光(400700nm)領域の光を吸収して発電することができます。可視光で発電可能であることから、室内の光でも発電することができるため、室内照明等のインテリアの電源やスマートフォン、災害時用のテント等様々な場所に使用することができると考えます。建築物の壁や窓での実証実験も進んでいますが、熱、紫外線の影響等を考えると室内での発電にメリットを感じています。室内で発電ができることは、シリコン太陽電池との差別化もできるのではないかと考えます。

Ⅲ. ペロブスカイト太陽電池の課題

様々な場所に取り付けが可能であり、弱い光でも発電するペロブスカイト太陽電池は、メリットだけを考えると非常に汎用性が高く、すぐに製品化されるように思われる方が多いかと思います。しかしながらテクニカルコラムNo.14でも触れた通り、ペロブスカイト太陽電池については、まだ以下のような課題があります。

① 水(湿度)、熱、光に対する耐久性
② 鉛の使用

以下、それぞれに対する技術的対策についてご紹介します。

Ⅲ-1. 水(湿度)、熱、光に対する耐久性

ペロブスカイト太陽電池に使用されるペロブスカイト結晶(例えばメチルアンモニウム鉛ヨウ化物)は、①水(湿度)、②熱、③強い光(紫外線)によって以下の化学式のように分解します。

メチルアンモニウム鉛ヨウ化物の分解

CH3NH3PbI3→CH3NH3++PbI2

この式で表されるようにヨウ化鉛の生成が進むと、ペロブスカイト構造が崩壊し 
  て太陽電池の発電効率が低下します。

現在、①水(湿度)、②熱、③強い光(紫外線)の影響を少なくして太陽電池としての寿命を延ばす検討が進められています。

Ⅲ-1-1. 封止材による水(湿度)に対する耐久性向上

例えば、水(湿度)に関しては、封止材によるペロブスカイト結晶の保護等による耐久性向上が検討されています。

この記事と文献では、ルイス塩基機能を持つp型有機半導体であるガリウムフタロシアニン水酸化物(OHGaPc)をパッシベーション層として導入することがペロブスカイト結晶の耐久性を向上するポイントのようです。この材料はルイス塩基であることによってハロゲン化物の空孔をパッシベーションし、p型半導体として効率的な電荷輸送を促進するとのことです。当該層の導入により、ハロゲン化ペロブスカイト膜内の空孔形成に起因する性能低下を抑制することで、ペロブスカイト太陽電池の安定性と性能を向上させられるうえ、極薄絶縁膜が不要になるといった、製造手法の簡素化にもつながると触れられています。

Ⅲ-1-2. 無機物採用による耐熱性向上

熱に対しては、有機物を使用しない全無機型のペロブスカイト結晶の使用があります。この記事を読みますと、ペロブスカイト結晶中の有機カチオンが、有機物であるため熱安定性が不足しています。CsKといった熱に安定な無機カチオンのみを使用することで、耐久性が高いペロブスカイト太陽電池の開発に取り組んでいます。有機カチオンにおいて、実験経験として第四級アンモニウム塩等は140℃から熱分解が始まっておりました。無機カチオンとしてアニオン界面活性剤等がありますが、第四級アンモニウム塩に比べて高い熱分解温度でした。このように、無機カチオンの使用は耐熱性の向上につながると考えます。

Ⅲ-1-3. UVカット材料を用いた耐紫外線向上

強い光(紫外線)に対しては、UVカットフィルムの使用やUVカットコーティング等による対策があります。UVカットコーティングについては、酸化チタン等をコーティングする方法があります。古い事例ではありますが、ガラスに酸化チタンをコーティングすることで、熱線反射が可能なガラスを作成することができます。ガラスの場合、数百度の加熱が可能であるため、ゾルゲルによるウェット法でコーティングは可能ですが、フレキシブル性を考えた場合、基材はフィルムになるため、低温での硬化が必要になります。この場合は、スパッタ法等のドライ法や、ウェット法であれば、無機粒子等を分散させた塗布液を使用したコーティング膜の成膜が考えられます。

Ⅲ-1-4. 鉛の使用

ペロブスカイト結晶に使用する鉛は、人体に対して有害であるため太陽電池から鉛が溶出しないように高い密閉性が求められるとともに、廃棄に関しても特別な処理が必要となります。そこで、現在は鉛を使用せず、スズ等の他金属元素を使用したペロブスカイト太陽電池の検討がなされています。ペロブスカイト太陽電池で使用されるヨウ化鉛は、発がん性、生殖毒性、特定標的臓器・全身毒性があるため、鉛を含まない安全な材料の開発が取り組まれています。鉛に代わる金属としては、鉛に比較して安全性の高いスズが注目されています。ただし、スズを使用した場合、発電効率が低くなるという課題が生じます。これに対する対応として、Geイオンをドープすることによる欠陥密度の抑制、バンドエネルギーの最適化による深い電荷トラップ密度の低減、並びにアミン化合物による粒界のパッシベーションによる欠陥密度の減少を実現し、発電効率を13.2%まで高めることに成功しています。鉛の安全性や環境への影響については、議論の余地があると考えております。例えば、釣り具のおもりは、現在も鉛を使用されており、人が素手でさわりますし、海中にも放置されています。そのため、ペロブスカイト太陽電池の廃棄において鉛が金属として廃棄できるのであれば、安全性や環境への影響は低いと考えます。、ペロブスカイト太陽電池で使用される鉛は、分解されると、ヨウ化鉛となり毒性が高いと考えられるため、他金属への代替ができるのであれば、好ましいと考えます。

Ⅳ. まとめ

ペロブスカイト太陽電池は、発明者の宮坂勉教授がノーベル賞候補に名前が挙げられている様に、国内外において非常に注目度が高まっています。また50cm2以上の面積の太陽電池について比較すると、シリコン太陽電池の変換効率は、1420%であり、ペロブスカイト太陽電池では、中国企業の極電光能が20.5%、日本企業のパナソニック、東芝がそれぞれ17.9%15.1%となっています。ペロブスカイト太陽電池が開発された当初の変換効率は、3%程度であり、シリコン太陽電池に比べて非常に低い発電効率でしたが、現在では、シリコン太陽電池と比較しても、同等レベルの発電効率が得られています。フレキシブル性があり、軽量であるとともに、弱い光で発電ができることから、晴れの日はシリコン太陽電池を使用し、曇天、雨天や室内においてはペロブスカイト太陽電池を使用するといった住み分けができると考えます。高寿命化が現在の課題となりますが、当社技術の導入による改善案の提案等ついても今後検討したいと考えます。

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