Technical

2020年09月28日

研究G技術通信

技術通信 No.1「架橋反応を応用した密着性に優れる滑り性コーティング剤」

MFC技術通信は、当社の日々の実験・考察から得られた、ちょっとした発見や新しい利用方法の可能性について、皆様に発信していくものです。

有機金属化合物は各種樹脂中の活性水素(官能基としては、水酸基、カルボキシル基等)と反応して密着性や耐熱性向上等をすることができるため、架橋剤として食品包装材用インキ等、幅広い分野で使用されています。今回は、この架橋反応を滑り性コーティング剤に応用した技術をご紹介します。

Ⅰ. 新たな知見

当社では、アクリルシリコーンをベースとした新たなコーティング剤の開発を行っていましたが、当初アクリルシリコーンをコーティングした膜は、膜強度の不足等による材料破壊を生じて、膜が脱落する問題点がありました。この問題解決のために、当社が製造している有機金属化合物による「金属架橋」を取り入れる試みを行ったところ、膜層内の破壊(材料破壊)による脱落の防止が可能であることがわかりました。

Ⅱ. 背景となる技術

今回コーティング剤開発で取り入れた「金属架橋」は有機チタン化合物による架橋です。有機チタン化合物は、図1.で示すように樹脂等の活性水素(官能基としては、水酸基、カルボキシル基等)と反応して進行します。

山下晋三、金子東助(1981)架橋剤ハンドブック P.309
図1. 有機チタン化合物による架橋反応

今回用いたアクリルシリコーンは活性水素を分子内に有する滑り性付与剤です。主鎖がアクリル樹脂のため、分子構造としては、3次元構造を形成しやすく、分子の物理的絡み合いの強さ等から一定の剪断強度を有しています。が、ラブ・オフテスト(表面を擦過するテスト)に耐えるだけの剪断強度は持ち合わせず、膜の脱落が起こってしまいました。
そのため有機チタン化合物による「金属架橋」をとりいれることで、もともとの分子の物理的絡み合いの他、架橋による分子間の結合力の向上を図った結果、剪断強度が増し、材料破壊が防止できたものと考えています。

滑り性付与剤としては、アクリルシリコーン以外にシリコーンオイルやワックス類(高級脂肪酸エステル)等が知られております。これらの滑り性付与剤にも分子内に活性水素を有するものがあり、アクリルシリコーン同様、図1.の架橋反応により高分子化することができます。ただ実際に、活性水素を有するシリコーンオイルやワックス類を使用したところ、前述のラブオフテストの評価で表1.に示すように膜の脱落が確認されています。
この理由はいくつか考えられますが、大きな原因として、これらの滑り性付与剤の主鎖の分子構造に起因しているのではないかと考えています。具体的に言えば、シリコーンオイルやワックス類は、主鎖の分子構造は直鎖状であり、アクリルシリコーンに比べ分子の物理的絡み合いや水素結合等を含む二次結合等の相互作用が低くなります。即ち剪断強度の絶対値が低いため「金属架橋」を取り入れても膜の脱落が防止できないと推定します。

表1. 有機チタン化合物と各種滑り性付与剤を用いた密着性
  シリコーン
オイル
長鎖脂肪酸
エステル
アクリル
シリコーン
擦過(ラブオフ)
後の皮膜残存
膜剥がれ 膜剥がれ 膜残存

*基材:PETフィルム 乾燥:100℃×30秒

Ⅲ. 応用例として

今回ご紹介した滑り性付与コーティング剤は、インクリボン等の熱が印加されるフィルムのバックコート等の密着性と摺動性が必要なものに対しての応用が期待できます。

Ⅳ. 応用例における実験例

表2. アクリルシリコーン+有機チタン化合物膜の物性
性能

アクリルシリコーン

+有機チタン化合物

<サンプルNo.X-1334>

他社アクリルシリコーン
動摩擦係数 0.14 0.14
背面転写性 転写無し 部分的に転写
耐ブロッキング性 ブロッキング無し 一部ブロッキングあり
耐熱性 200℃以上 200℃以上

*乾燥:100℃ × 30秒

様々なコーティング剤に有機チタン化合物による架橋反応を応用することで、本稿で述べた、密着性だけでなく、他機能性を有する膜形成が可能な組成物も設計が可能と考えております。貴社における開発等でお困りの事例や、付与したい機能等があれば、弊社に問い合わせを頂けると幸いです。

(研究グループ 橋本)

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