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2024年08月23日
当社の有機金属化合物製品であるオルガチックスは、インキ、塗料、ワニス等のコーティング剤に添加、またはプライマー膜形成材料として使用することで、基材とコーティング膜の接着・密着性を向上させることが可能です。今回は、この接着・密着にについて着目し、その原理やオルガチックスを使用した例について記載します。
接着と密着の違いについては、様々な意見があるかと思います。筆者の考えとしては、接着は、「“物”と“物”をくっつける」ことであり、例えば、接着剤で物品同士を「簡単に動かすことができず、容易にはがすことができないこと」が接着と考えています。一方、密着は「隙間なくくっつくこと」であり、例えば、2枚のガラスの間に水を入れて合わせたときに動くものの落ちない現象があります。くっついてはいるものの、動かすことができる現象が密着と考えています。
接着・密着の発現機構については、表1に示す以下の3つの相互作用にあると考えられています。
<表1. 接着・密着にかかる相互作用>
相互作用 |
種類 |
物理的相互作用 |
Van der Walls力 等 |
化学的相互作用 |
共有結合、配位結合、イオン結合、 水素結合 等 |
機械的相互作用 |
アンカー効果 等 |
*配位結合は電子対の共有に基づく結合であるため、共有結合の一種とされます。ただし、共有結合は、2元素が電子を共有するのに対して、配位結合は一方の元素から電子を与え、2元素間で共有する。結合状態は同一であるが、本稿では、別の結合として記載します。
Van der walls力とは、電荷の偏りに起因する物理的相互作用であり、分子間の引力です。以下に述べる作用等により、接着・密着の効果が発現します。
① 静電引力
② 電気陰性度の差による電荷の偏り
③ 極性を持つ分子(永久双極子)が無極性双極子を誘起して 誘起双極子を発生させる永久双極子-誘起双極子の相互作用
④ 無極性分子内の電子移動による双曲子の発生による分散相互作用
分子を構成する原子を互いに結び付けて、分子を形成させる化学的相互作用であり、いわゆる結合です。共有結合や配位結合では、原子間における電子の共有、イオン結合では、静電気力での結合、水素結合では、質量が小さい水素原子が、他の陰性の原子に引き寄せられて結合することによって、接着・密着の効果が発現します。
機械的相互作用であり、機械的結合、投錨効果、ファスナー効果ともいわれます。表面の孔や隙間に入り込み、固化する食い込み効果により接着・密着性が発現します。基材(母材)を物理的に粗面化して接着・密着性を向上する場合は、この効果によるものと考えられます。
当社のオルガチックスによる接着・密着性の発現効果は、物理的、または化学的相互作用によるものと考えられるため、以降、これら2種類の相互作用について記載します。
物理的相互作用、化学的相互作用の強さの順位は、
(強い)共有結合>イオン結合>配位結合>水素結合>Van der Walls力(弱い)
であり、これらを結合エネルギーの数値を基本に一覧にすると表2のようになります。
<表2. 相互作用の種類と結合エネルギー>
化学的相互作用の種類 |
結合エネルギー(KJ/mol) |
Van der Walls力 |
0.1~10 |
水素結合 |
10~40 |
配位結合 |
10~300 |
イオン結合 |
600~4000(ただし変動する) |
共有結合 |
150~1000 |
*イオン結合は強い結合であるが、特定の条件下で変動する。
* 配位結合は、配位子と金属の組み合わせによって水素結合同等から、共有結合まで結合エネルギーが変化する。
このように、電子を共有する共有結合が一番強く、静電引力等で結合しているVan der Walls力は一番弱くなります。
化学的相互作用の一種である共有結合やイオン結合は、表2で示した結合エネルギーの高さで示されたように非常に強く結合するため、強固に接着・密着します。共有結合性が認められた例としては、ガラス繊維表面とシランカップリング剤の反応があり、A.J.Kinloch ; Durability of Structual Adhesived p.1 applied Science Publisher p.1(1983)に述べられています。
有機チタン化合物においても、表面に水酸基等を持つ基材であれば、共有結合を形成すると考えられます。プラスチックフィルム等表面に反応する官能基が少ない場合は、共有結合ではなく、物理的相互作用であるVan der Walls力や、化学的相互作用であるものの結合エネルギーが低い水素結合による接着・密着性が発現されると考えます。
基材に対してコーティング膜を塗布、硬化した後の接着・密着の状態を視覚的に捉えることは非常に難しく、擦過や、膜硬度、碁盤目試験等によって判断することが一般的と考えます。接着における挙動を直接的にとらえる手法として、最近の研究では、産総研にてアルミニウムとエポキシ接着剤における剥離プロセスを電子顕微鏡でリアルタイムに観察した例があります。
世界初、接着剤が引き剥がされるプロセスを電子顕微鏡でリアルタイム観察
接着・密着の強さは、接着・密着界面との化学的/物理的/機械的相互作用、または接着剤層の強靭さ等によって決定されると予想されます。しかしながら、この研究成果では複雑なプロセスによって接着剤層がアルミニウムから剥離しており、界面破壊、接着剤層の破壊(凝集破壊)のどちらとも言えないと考えます。このように近年では剥離プロセスを電子顕微鏡でリアルタイムに観察できるようになってきたため、今後、様々な接着・密着原理の解明が進むと考えています。
有機チタン・ジルコニウム・アルミニウム化合物であるオルガチックスを添加剤として使用した場合やプライマーとして使用した場合においては、ミクロな意味で隙間なくコーティング層と基材をくっつけるものであり、接着ではなく、密着と考えられます。
以下にプライマーを例とした推定密着機構を動画で示します。
<動画:オルガチックスを使用した密着性向上>
オルガチックスをプライマーとして使用した場合、基材との密着性発現においては、チタンへの配位結合を含めた共有結合や水素結合といった、主として化学的相互作用が関与していると考えています。図示はしていませんが、その他に物理的相互作用であるVan der Walls力も関与していると推定します。どの結合や力が主に関与しているかは不明ですが、遷移金属であるチタンへの配位によって密着性を向上できることが、オルガチックスの特徴です。当社のプライマー製品としては、オルガチックスPC-200やPC-620が該当します。
一方で、塗料、ワニスを含む各種コーティング剤にオルガチックスを添加して密着性を向上させた例もあります。例えば、硝化綿を含む印刷インキの場合、以下図1で示す推定構造によって、オルガチックスとの架橋反応により耐熱性、耐溶剤性が向上すると同時に、基材と硝化綿が共有結合して密着性を発現していると推定します。上述のプライマーと同様、他の結合も影響している可能性があります。
<図1. 硝化綿と基材の密着性向上 オルガチックスの推定反応機構>
このように、添加して密着性向上を行う場合のオルガチックスにおいては、コーティング剤の安定性を考慮してキレート化合物を使用する場合が多く、例えばオルガチックスTC-100、TC-750等が好ましい場合があります。また、水系コーティング剤の場合は、水に溶解する化合物としてオルガチックスTC-310やTC-400等があります。
物と物をくっつける接着や物と物の隙間をなくしてくっつける密着は、物理的、化学的、そして機械的相互作用を主とした複数の要因が関係しています。当社オルガチックスは密着性向上剤として、コーティング剤への添加やプライマー膜形成剤として使用可能な製品です。本内容にご興味がございましたらお気軽にお問合せください。
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