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2024年05月28日

テクニカルコラム

テクニカルコラムNo.12 有機金属化合物オルガチックスとポリイミドの有機無機ハイブリット材料の合成

. ポリイミドについて

ポリイミドは、耐熱性が高く、電気絶縁性、機械特性、寸法安定性などの特徴を持っていることから、電子機器、航空宇宙分野、半導体製造装置など幅広い分野で使用されています。

Ⅱ. ポリイミドの合成

<図1. ポリイミドの合成方法>

ポリイミドは、図1で示すように、テトラカルボン酸2無水物とジアミンを反応させたポリアミック酸に触媒を用いてイミド閉環反応をすることで得られます。

. 有機無機ハイブリット材料とは何か

有機無機ハイブリットとは、金属や金属酸化物などの無機材料と樹脂などの有機材料を融合することで、有機材料が有する柔軟性や分子設計のしやすさなどの特徴と無機材料の耐熱性や強度などの特徴をあわせもつ材料です。

.ポリイミドを使用した有機無機ハイブリッド材料合成の例

ポリイミドを用いた有機無機ハイブリッドの例としては、シリカハイブリッドポリイミドフィルムについて文献があります。

合田秀樹、福田猛,位置選択的分子ハイブリッド法による有機・無機ナノハイブリッドの特性について,エレクトロニクス実装学会誌,Vol 14,No3(2011) p170-174

本文献によると、ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸にアルコキシシランオリゴマーを結合させ、アルコキシシランのゾルゲル法による加水分解重縮合反応とイミド閉環反応を行うことで、シリカハイブリッドポリイミドフィルムを得ることができるとの記載があります。
本手法で得られたシリカハイブリッドポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムに比べて以下のようなメリットを発現することができるようです。

     寸法安定性が高い。

     絶縁破壊(放電による誘電体の機能不良)につながる銅イオンのマイグレーション(移動)を抑制できる。

     金属基材との密着性が向上できる。

.  有機チタン化合物を使用したポリイミドとの有機無機ハイブリッド材料合成の例

前述の文献のように、アルコキシランオリゴマーが、有機無機ハイブリッド材料として使用できるのであれば、同様な構造であり、ゾルゲル反応する有機チタン化合物も無機材料の原料として使用可能と考えられます。
有機チタン化合物を使用した事例としては、以下文献によるポリイミド膜の誘電率を向上させた例がありましたのでご紹介します。

豊島利之・馬場文明・安藤虎彦、伊与久義武・柿本雅明・今井淑夫,ゾルゲル法を用いたチタンオキシド/ポリイミド複合膜の作製と諸特性,ポリイミド最近進歩 1994,152-155

文献は、ポリアミック酸、または可溶性ポリイミドを原料とし、成膜が容易な高誘電性材料を得ることを目的に検討していました。高誘電体としては、チタン酸バリウムや酸化チタンなどが知られており、その前駆体としては、チタンアルコキシドやチタンキレートがあります。チタンアルコキシドは水酸基やカルボキシル基などとの反応性が高いため反応の制御は難しいことから、キレート化剤を併用して反応の制御を行い、ハイブリッド化を検討しています。

その結果、ポリアミック酸を使用した場合、安定な液組成物は得らなかったと述べられています。一方、可溶性ポリイミドを使用した場合、チタンテトライソプロポキシド(TIPT)にアセチルアセトン、アセト酢酸エチルなどのキレート化剤を併用することで安定な液組成物を得ることができたとのことです。特にTIPTのキレート化剤としてアセチルアセトンを用いて可溶性ポリイミド溶液と反応させた複合膜においては、チタンの含有量増加に伴い、誘電率の向上が認められている結果が示されています。

チタンアルコキシドやチタンキレートをポリアミック酸と混合した際、安定な液組成が得られなかった理由としては、チタンアルコキシドとポリアミック酸中のカルボキシル基が置換反応して、架橋構造を形成したためと考えられます。

.ポリイミドを主とした有機無機ハイブリッド材合成における有機チタン化合物に関する考察

-1. 同じアルコキシドでもケイ素とチタンで加水分解の反応速度は全く違う

Ⅳ項で示した文献では、ケイ素アルコキシドとポリアミック酸との反応でポリイミド前駆体の合成に成功しておりますが、反応性の違いにより、TIPTのようなチタンアルコキシドでは合成ができなかったと考えます。

同一のアルコキシ基を有するチタンとケイ素化合物の加水分解反応性を比較した場合、その反応速度はチタンの方が、106M-1S-1)速いことが示されている文献があります。
(文献:Sol-gel Science C.Jeffrey Brinker  Gerorge W.Scherer(1990) p.45

-2. 安定な溶液を得るためには、TIPTに対するキレート化剤の添加量・種類が重要

-2-1.ゲル化は TIPTの空のd軌道に対するカルボキシル基の親核攻撃が原因

ポリアミック酸との反応において、キレート化剤を添加することで、チタンアルコキシドの反応性を低下させ、安定な液組成物が得られないか検討しておりますが、前述の文献における実験事例では、安定な溶液が得られておりませんでした。
この事象は、チタンアルコキシドに対するキレート化剤の添加量と種類が影響していると考えます。以下にこの現象をチタン化合物の構造から考察します。
チタンアルコキシドの例としてTIPTについて考えます。本化合物は、チタン原子に対して4モルのイソプロポキシ基が結合している化合物です。
チタン原子は、46配位構造をとるため、TIPTは、配位結合ができる2つの配位座が空いています。すなわち、空のd軌道が存在していることになります。TIPTとポリアミック酸の反応においては、ポリアミック酸のカルボキシル基が、この配位座から直接チタン原子に親核攻撃するため、非常に速く反応してゲル化します。

-2-2. キレート化剤でTIPTの配位座を埋めて親核攻撃を抑制する

一方、TIPTにキレート化剤を添加して反応させた場合、得られるチタン化合物はチタンを含む環状のキレート構造が形成されるため配位座が埋まります。配位座が埋まることにより、カルボキシル基がチタン原子へ親核攻撃はされにくくなるため、安定な溶液を得やすくなります。
キレート化剤の量と安定性においては、量を入れるほど、安定な溶液が得られます。特に、TIPTに対して2モル反応させることで、配位座がすべて埋まるため安定になると考えます。また、弊社実験の事例として、水酸基を有する樹脂との反応に関する傾向ではありますが、2モル以上添加することで、安定な溶液を得られたとの結果が得られています。このように、安定な溶液を得るためには、TIPTに対して2モル以上のキレート化剤を添加・反応する必要があります。

-2-3. キレート化剤の反応性に与える化学構造

キレート化剤の種類と反応性は、以下のような序列の傾向があります。

(反応しにくい)アセチルアセトン>アセト酢酸エチル>グリコール類など(反応しやすい)

各キレート化剤と反応性は、以下のような構造の違いが関係しています

     キレート構造として共役構造があるか。
 共役構造を有する方が反応性は低下します。

     キレート構造の末端官能基の電子供与性の違い。
 電子供与性の分子が強い方が反応性は低下します

アセチルアセトン、アセト酢酸エチル構造はともに、共役構造を形成しています。各キレート構造の末端官能基は、アセチルアセトンがメチル基、アセト酢酸エチルは、エトキシ基であるため、電子供与性が高いメチル基を有するアセチルアセトンの方が、キレート構造内の電子密度が高くなるため、反応性は低下します。
一方、グリコール類に関しては共役構造が存在していないため、アセチルアセトンやアセト酢酸エチルよりも反応性が高くなります。

-2-4. ポリアミック酸のゲル化を回避できるチタン化合物は何か

以上の考察より、ポリアミック酸に対して使用可能なチタン化合物としては、例えば、TIPTに対して2mol以上のアセチルアセトンが結合した化合物が一候補となります。
これを用いることでゲル化を抑制できるため、安定な液組成の有機チタン化合物で修飾されたポリイミド前駆体が得られると考えます。

これに関連した情報として、2モルのアセチルアセトン基を持つオルガチックスTC-1002モルのアセト酢酸エチル基を持つオルガチックスTC-750、グリコールキレートであるTC-245が、上記用途に適用できる可能性のある当社製品のチタン化合物になります。

. 最後に

有機金属化合物であるオルガチックスは焼成すると金属酸化物となるため、各金属酸化物が持つ電気特性や耐熱性などを発現することが可能と考えます。
今回ご紹介した文献では、ポリイミドとの有機無機ハイブリッドの例を示しましたが、水酸基やカルボキシル基などを有する他樹脂との組み合わせも可能と考えております。
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