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2025年10月28日
森林火災は世界的に規模と頻度を増しつつあり、日本においても重要な課題となっています。2025年2月に岩手県大船渡市で発生した大規模火災では、空中散布を含む消火活動が実施されましたが、鎮火までに長期間を要したと消防庁の報告書でも課題が指摘されています。現行の消火剤には即効性がある一方で、雨で流されやすい、環境に負荷を与えるといった課題が残されています。本稿では、森林火災用消火剤の評価制度の現状と課題を整理し、当社有機金属化合物製品の「オルガチックス」のうち、当該評価制度に適合しうる水系の有機金属化合物製品の導入可能性について、技術的視点から考察します。
森林火災で使用される消火剤の種類と特徴等を表1に示します。
<表1 森林火災用消火剤の分類と課題>
| 種類 | 特徴 | 主な使用材料 | 課題 | 
| リン酸塩系遅延剤 | 可燃物表面に耐火層を形成 | アンモニウムリン酸塩 | 雨で流亡、水域汚染や富栄養化 | 
| 発泡剤(フォーム) | 火炎を覆い酸素を遮断 | 界面活性剤(PFAS系が主流だった) | PFAS汚染が課題であり、代替品は耐久性に課題 | 
| 濡れ剤 | 水の浸透性を高め初期消火に有効 | 界面活性剤 | 環境負荷は小さいが持続性不足 | 
| ゲル型 | 水を保持し蒸発を抑制 | セルロース誘導体、高吸水性高分子 | 耐久性不足・コスト課題 | 
いずれの消火剤も一定の消火能力が認められますが、長期間の消火効果の維持と低環境負荷、安全性を両立させることが難しいと考えられます。この課題の解決を行うためには、まず、消火剤の評価方法を確立することが求められます。この課題を背景に、米国や日本では評価制度の整備が進められています。
米国は、森林火災用消火剤の採用にあたり Qualified Products List (QPL) を運用しています。この QPL に登録されるためには、USDAが定める技術仕様書 “Specification 5100-304d” に基づいた以下の試験項目に基づき評価されます。
① Fire-retarding effectiveness(火勢抑制効果)
② Product stability, physical parameters(製品安定性・物理的特性)
③ Drop testing(航空投下時の挙動)
④ Aquatic toxicity, ecological risk assessments(水生生物毒性・生態リスク評価)
⑤ Human safety(作業者の安全性)
(参考:USDA Forest Service – About the QPL、Submission Guide PDF)
これらの試験は、消火効果の持続性・資材の安定性・環境および人への影響を多角的に検証するものであり、いわば「長期的な性能の維持」と「環境・安全性の両立」を確認する仕組みとなっています。
日本では統一的な仕組みはまだありませんが、消防庁は米国の仕様(Specification 5100-304d)を参考に物性試験・延焼抑制性能・毒性試験などの導入を検討しています(消防庁資料)。
さらに林野庁は、
・ 2026年:環境影響評価が整うまで暫定的に残火処理用途に限定して運用
・ 2027年:環境影響評価を踏まえた本格運用を開始
という段階的導入計画を示しています(林野庁資料)。
このように、日本は制度整備途上にありますが、米国の制度同様に「長期的な消火効果」「環境への負荷」「作業者の安全性」を重視する方向で整備が進められています。
森林火災で用いる消火剤は、「長期間の消火効果の維持」、「低環境負荷」、「安全性」が必要となります。当社の有する有機金属化合物製品のオルガチックスは、有機溶剤に溶解可能な材料の他、乳酸やアルカノールアミンを配位子とする水に溶解可能な「水系化合物」があります。本水系化合物は可燃性溶媒を含まず、水に対して溶解することが可能なため、安全性が高く、また、環境負荷が小さい化合物です。化合物を使用した消火剤設計の可能性について以下に記述します。なお、以下で記述される当社の有機金属化合物製品「オルガチックス」は水系化合物のものを指すとします。
オルガチックスは、加熱時に分解して金属酸化物を生成します。例えば乳酸基を有するTC-310やTC-315や、乳酸アンモニウム基を有する同TC-300が分解すると酸化チタンを生成します。これら化合物を主体に消火剤を設計した場合、火災熱によって生じた酸化チタン膜が可燃物表面に耐火層として形成され、再燃抑止に寄与すると考えられます。既述の通り、耐火層を形成する従来型のリン酸塩系遅延剤は、雨による流亡の結果生じる水域汚染や富栄養化等の環境問題が指摘されています。これに対して、オルガチックス由来の酸化チタン膜は、可燃物表面と化学的に結合をすることで、当該流亡を防ぐと考えられます。また、酸化チタンが無機物であり、構造変化がほとんど生じないため、長期的な耐久性と高い安全性を有します。結果、水域汚染リスクの低減と再燃の抑止、そして長期間の消火効果の維持を両立させる可能性があることから、既存の消火剤の課題解決につながると期待できます。
オルガチックスは、樹脂中の水酸基と反応するため、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂のゲル化剤として使用することができます。この反応系において、火災で発生する燃焼熱が供給されると、水溶性樹脂との反応が促進させれます。この反応の結果、オルガチックスによって架橋したゲルは、水溶性樹脂と化学結合をした構造となり、水素結合等で物理的相互作用にもとづくゲルと比較して耐熱性や強度といった物理的、及び機械的特性が優れると考えられます。この優位性によって、ゲル型の既存消火剤の課題である耐久性不足を改善できる可能性があります。
水に溶解可能なオルガチックスは、乳酸等の親水性を有する官能基を有しており、また火災熱によって親水性の酸化チタン膜を形成可能です。親水性の高さは、水の浸透性を高めるという意味で初期消火に有効であると考えられます。さらに、Ⅴ-1.で述べたように生成された酸化チタン膜は可燃物表面と化学的に結合することが期待できるため、既存の界面活性剤型消火剤で課題となる持続性不足を解消できる可能性があります。
森林用消火剤は、「長期間の消火効果の維持」、「低環境負荷」、「安全性」が必要となります。日本では、2026〜2027年に制度を策定して進めるとの方向性が示されており、当該制度の下で各社による開発が今後進むと考えています。その中で、当社製品の有機金属化合物のうち水系化合物のオルガチックスは、有機系と比べて毒性も低いため、高い安全性と低環境負荷が担保できます。またその反応性から、長期間の消火効果の維持にも貢献できる製品ではないかと考えています。当社は、環境安全性を重視した新たな水系の有機金属材料の開発を通じ、持続可能な防災製品原料の提供を目指してまいります。
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