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2025年09月12日
世界の産業分野において、貴金属を使用した錯体は、高性能・高信頼な材料として不可欠です。しかし、価格高騰や調達リスク、環境負荷の懸念などから、貴金属を汎用金属に代替する技術へのニーズが高まっています。例えば、白金族金属(PGM)や金・銀は供給不安が深刻で、資源確保とサステナビリティを両立する材料研究の加速が求められています。今回のテクニカルコラムは、貴金属を代替する研究内容のご紹介とともに、当社の製品や合成技術を用いた貴金属代替錯体の課題解決の可能性について紹介します。
Pd、Ru、Pt、Ir、Rh などの貴金属を中心とする錯体を触媒は、電子状態の制御性、酸化還元の安定性、多彩な配位様式を持つことから、例えばPd(PPh₃)₄ を用いた Suzuki–Miyaura や Heck 反応は、炭素–炭素結合形成の革新的手法として医薬品として使用されるトリアリルメタン誘導体等の合成に応用されています。また、Ru 錯体はオレフィンメタセシスや C–H 活性化反応で高い有効性を示し、Ir 錯体は不斉水素化や水素移動反応に利用されるなど、それぞれの金属特有の電子状態と配位化学を活かした多彩な触媒反応が展開されています。これらの反応は今日の有機合成を支える基盤技術であり、触媒化学の発展に大きく寄与してきました。
貴金属錯体は、様々な反応の触媒として有用ではありますが、以下のような問題点が存在します。
① 希少性:埋蔵量が少なく、特定地域に偏在しているため、地政学的リスクに左右されやすい。
② 価格:埋蔵量が少ないため、価格変動が激しい。
③ 資源的持続性:採掘・精製に大きな環境負荷を生ずる。
④ リサイクルの困難さ:使用後の回収に高コスト、高エネルギーが必要になる。
⑤ 毒性:一部の錯体は強い毒性を持つことから生体への影響が懸念される。
上記のような課題故、貴金属代替錯体に関する継続的な改善への取り組みが行われています。次に当該取り組みについて事例をご紹介します。
前出の貴金属錯体の問題点①や②の解決策として、錯体の中心金属種を埋蔵量が多い(クラーク数が大きい)汎用金属で代替することが考えられます。例えば汎用金属の一つである鉄に注目すると、水素化、クロスカップリング、光酸化反応などにおいて代替触媒として研究が進められています。中でも、ヒドロキシシクロペンタジエニル配位子と COを配位子として持つKnölker型鉄錯体はルテニウム錯体の代替としてケトン類の水素化に高い触媒活性を示し、また、NHC(N-ヘテロ環カルベン)配位子を導入したFe(0)錯体は、クロスカップリング反応におけるPdの代替触媒として期待されています。その他、Ni、Mn、Co、Cu等の中心金属を持つ金属錯体も貴金属錯体の代替化合物として注目されています。このように、貴金属代替錯体に関する研究が現在も活発に行われていますが、汎用金属錯体は一反応選択性や空気・水に対する安定性、触媒寿命の点で貴金属錯体に劣る場合が多く、一部の反応系においては実用化を制限する要因となっています。したがって、長寿命で選択的な触媒設計、幅広い基質に対応可能な反応条件の最適化等が今後の重要な研究課題としてあげられます。さらに、汎用金属錯体の工業的な使用においては、再利用性やスケールアップ適性の確保といった実用面での検証も必要と考えます。
当社で製造・販売しておりますチタン、ジルコニウム、アルミニウムを中心金属とした有機金属錯体の“オルガチックス”は、ルイス酸触媒として機能しますが、貴金属錯体のような酸化数変化を伴う電子移動反応は生じません。また、中心金属の酸化数を可逆的に変化させることや電子の授受を介して進めることが困難なため、貴金属錯体を触媒として進行するクロスカップリング反応やヒドロホルミル化反応等に、前述の当社有機金属錯体製品をそのまま適用することは難しいと考えます。
一方で、オルガチックスは金属酸化物の“前駆体”として使用できることから、固体触媒における貴金属酸化物の代替材料として可能性があると考えます。一例として、チタンアルコキシドを前駆体として使用した反応があります。プロピレンと過酸化水素の反応により、プロピレンオキシドを生成するものです。チタンアルコキシド、ケイ素アルコキシド、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシドを原料とし、ゾルゲル反応、水熱合成によってチタンとケイ素からなるゼオライトを触媒として機能させ、前出の反応を進行させることができます。この反応は、従来、選択的酸化反応はRuやPtなどの貴金属錯体が検討されてきましたが、非貴金属であるTiを用いた例といえます。しかしながらこのチタンとケイ素からなるゼオライトに存在するTi-O-Si結合は、加水分解を受けやすい化合物です。過酸化水素は水溶液として使用するため、その水によって加水分解反応が生じて触媒としての活性が短時間で失活する、または繰り返しの使用が困難となるといった課題があります。工業化において触媒の長寿命化や再使用性はコスト面等から極めて重要な課題です。こうした課題を克服するためには、ゼオライト表面をフッ素基やジメチルシリル基等の官能基を持つ材料でコーティングして疎水化するといった方法が有効と考えられます。当社製品であるオルガチックスを前駆体として使用し、前述の触媒失活抑制の対策の上で複合金属酸化物を形成させます。このようにしてできた複合金属酸化物が酸化・酸触媒性能を発現できれば、貴金属錯体が担ってきた酸化触媒の一部を代替できるのではないかと考えます。
当社では、アルコール交換反応等によって様々な配位子を金属原子に結合させた有機金属錯体を合成できる技術を有しています。この技術を活用することで、貴金属代替として期待される鉄やニッケルといった資源的に豊富な汎用金属に対しても、多様な構造を有する錯体を設計できる可能性があります。構造設計の精度と自由度を高めることで、電子状態の精密制御や酸化還元反応性の向上につながり、将来的には汎用金属錯体を用いた持続可能な触媒体系の開発に寄与できると考えます。
貴金属錯体は、高活性、高精度な触媒として多用途に研究されてきましたが、価格や資源の制約から、Fe、Ni等の汎用金属錯体への代替研究進められています。今回のテクニカルコラムでは、代替材である汎用金属錯体の課題と、当社の有機金属化合物製品であるオルガチックスやその合成技術による当該課題解決の可能性についても述べました。今後当社においても、錯体設計と応用展開の両面から持続可能な材料の設計に取り組んでまいります。
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