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2024年06月24日

テクニカルコラム

テクニカルコラムNo.13 ルイス酸触媒としての有機金属化合物の利用

. ルイス酸とは

空の軌道を有しており、他分子からの電子対を受け取ることができる原子をルイス酸と呼びます。当社で製造・販売している有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物は、チタン、ジルコニウムであればd軌道、アルミニウムであればp軌道に空の軌道を有しており電子対を受け取ることができることから、これらの化合物はルイス酸となります。

. ルイス酸の強さ

ルイス酸の強さについては、未だに論文などが出されておりますが、以下の記述に該当する場合、当該強さが向上する傾向があります。

① 中心金属の電気陽性が大きい=電気陰性度が小さい
② イオンの価数が大きい
③ イオン原子の原子半径が小さい
④ 金属イオンに結合する元素の電気陰性度が大きい
*④については、ハロゲン族の場合に異なる場合がある。

-1. チタン、ジルコニウム、アルミニウムの金属元素としての特性比較

①~③の傾向について、同じ官能基を有するチタン、ジルコニウム、アルミニウムを比べた場合、以下のようになります。

 

<表1. チタン、ジルコニウム、アルミニウムの特性>

 

電子構造

電気
陰性度

イオンの価数

イオンの原子半径()

チタン

[Ar]3d24S2

1.54

4

0.605

ジルコニウム

[Kr] 4d25S2

1.33

4

0.84

アルミニウム

[Ne]3S23P1

1.61

3

0.535

電子構造として、チタン、ジルコニウムはd-ブロック元素であり、d軌道に空の軌道が存在する元素です。アルミニウムはp-ブロック元素であり、p軌道に空の軌道が存在しています。
電気陰性度においては、ジルコニウムが最も低くなります。つまり、電気陽性としてはジルコニウムが一番大きい元素となります。
イオンの価数としては、チタン、ジルコニウムは4価の状態が最も安定であり、またアルミニウムは3価となります。
イオンの原子半径としてはアルミニウムが最も小さく、次にチタン、ジルコニウムの順となります。
同族の金属元素であるチタンとジルコニウムであっても、電気陰性度、イオンの原子半径といった指標のみでは、どちらがルイス酸として強いか判定が難しいと考えます。

このように、元素の基本特性だけでルイス酸の強さを断定するのは困難なのです。

-2. チタン、ジルコニウム、アルミニウムの金属元素でルイス酸として強いのは何か

同族元素のルイス酸の強さについて比較を行うにあたり、参考となる切り口があります。

以下文献のW.R.Guntherらによるゼオライト中のヘテロ金属原子に吸着下ピリジンの15N NMR測定結果を用いたルイス酸の強さの評価結果からは、TiHfZrSnの順でルイス酸として強いとの結果が得られています。

W.R.Gunther,V.K.Michaelis,R.G.Griffin,Y.Roman-Lesshkov,J.Phys.Chem.C 2016 ,120,28533

また、当社での加水分解重縮合反応などの結果ではチタン化合物よりもジルコニウム化合物の方が反応しやすい場合が多く、文献の記載と同様にジルコニウムの方がチタンに比べてルイス酸として強いと考えられます。
一方で、アルミニウムについて考察してみます。各金属元素の電子構造からチタンやジルコニウムの空の軌道はd軌道であるのに対し、アルミニウムの空の軌道はp軌道となっています。

軌道とエネルギーの関係は、

(低エネルギー)1s<2s<2p<3s<3p<4s<3d<4p<5s<4d<5p<6s<4f・・(高エネルギー)

となり、3p軌道に空の軌道を持つアルミニウムは、3d、並びに4dにそれぞれ空軌道を有するチタンやジルコニウムよりも低エネルギーとなります。このため、チタンやジルコニウムに比べてアルミニウムは他分子からの電子対を受け取りやすく、結果としてアルミニウム化合物はルイス酸としてより強いと推測できます。

これらの考察から、同じ官能基を持つチタン、ジルコニウム、アルミニウム化合物のルイス酸の強さは、(強)AlZrTi(弱)と考えます。
この傾向は、各金属アルコキシドと水との反応でも認められています。水との反応は、各金属原子の空の軌道が水分子の酸素が持つ電子を受けとることで進行します。

当社での実験結果では、(速)AlZrTi(遅)であり、上述のルイス酸の強さ順位と同様の傾向を示すことがわかっています。

. エステル化反応におけるルイス酸触媒としての利用例

ルイス酸は他分子の電子対を受け取りやすいため、エステル化、エステル交換、ウレタン化アルドール反応など様々な反応触媒として利用されています。

今回は、エステル化反応触媒として使用した場合について紹介いたします。

-1. 1,3-プロピレングリコールとテレフタル酸のエステル化触媒

以下文献には、ポリプロピレンテレフタレートの合成におけるエステル化反応について記載されています。その中で1,3-プロピレングリコールとテレフタル酸のエステル化反応において、ルイス酸として、チタンテトラn-ブトキシド(オルガチックスTA-21)、ジルコニウムテトラn-ブトキシド(オルガチックスZA-65)の他、酢酸マンガン、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛等を触媒として使用した際の活性について述べられています。
本文献の結論では、エステル化触媒として、チタンテトラn-ブトキシドが最も効果的と記載されています。

G.P.Karayannidis, C.P.Roupakias, D.N.Bikiaris,D.S.Achilas, Study of various catalysts in the synthesis of poly(propylene terephthalate) and mathematical modeling of the esterification reaction, Polymer, 2003, 44, p.p 931-942

-2.ジルコニウムよりもルイス酸の強さが弱いチタンがなぜ触媒として有効だったかについて未だ明確な答えに到達していない

詳細は文献を参照していただきたいと考えますが、図3で示す金属の酸性度と反応速度乗数のプロットを行うとジルコニウムよりもチタンの方がエステル化反応において最適な酸性度との結果が得られています。

G.P.Karayannidis, C.P.Roupakias, D.N.Bikiaris,D.S.Achilas, Study of various catalysts in the synthesis of poly(propylene terephthalate) and mathematical modeling of the esterification reaction, Polymer , 2003, 44(2003), p.p 939

<図3. エステル化反応速度と各種金属化合物の酸性度>

前述したルイス酸の強さとこの文献における実験結果を考察すると、エステル化、エステル交換、ウレタン化反応など各種反応において、ルイス酸の強さ=効果的な触媒とは言い切れないと考えられます。
既述の結果は液体ルイス酸に関するものでしたが、固体ルイス酸が対象ではあるものの、類似の内容が以下文献に結果として記載されています。
この文献では、ルイス酸の強さと触媒活性の関係について述べられています。Ⅱ項で述べた15N NMRシフトによるルイス酸としての強さはTiHfZrSnであるのに対し、これら金属のゼオライトを触媒とした分子間移動水素化反応における反応速度はTi<<SnZrHfであったとのことです。この結果から、ルイス酸の強さと触媒活性においては、明確な相関性は認められなかったとの記述があります。

大友亮一,固体ルイス酸の触媒性能は何に支配されているのか?,化学と工業, 2020, 73, p.p 740-741

このように触媒活性の高低は、金属元素に結合する官能基の影響や反応させる成分との接触確率等、様々な因子も関与します。
そのため、触媒を選択する際は金属元素のルイス酸の強さだけではなく、化合物の構造や性状も検討材料に入れる必要があると考えます。

. オルガチックスのルイス酸触媒としての利用について

当社の有機金属化合物 オルガチックスはルイス酸触媒として下表で示すような反応に使用可能です。

<2. オルガチックスを触媒として用いた反応例>

適用可能な反応

触媒性能

推奨製品

エステル化、エステル交換

環境負荷の高いスズ等の代替

TA-8,TA-21,

TC-310,TC-400

ウレタン化

環境負荷の高いスズ等の代替

TA-30,TC-750,ZC-700

シリコーン硬化

硬化速度の向上

(環境負荷の高いスズ等の代替)

TA-80,TC-750

アルドール縮合

反応温度の低温化
生成物の化学構造制御

TA-8,TA-21

アミノ酸のペプチド化

副反応の抑制

TA-8,TA-21

オレフィンのエポキシ化

官能基選択制が高い

TA-8,TA-21,TA-80

二酸化炭素を原料とした尿素誘導体やウレタン化合物の合成

カーボンリサイクルに関わる反応に適用

TA-8,TA-21,TA-80

触媒としての利用については、お役立ち情報として「反応温度低減、高効率/講習率反応を実現する触媒としての有機金属化合物「オルガチックス」」として技術情報をホームページに掲載しておりますので、本記事と併せてご覧いただけると幸いです。

. まとめ

ルイス酸は他分子からの電子対を受け取ることができることから、様々な反応の触媒としての効果を発揮できます。
チタン、ジルコニウム、アルミニウムなどの化合物はルイス酸の一種であり、触媒として使用されております。
しかしながら、ルイス酸の強さと触媒としての性能はイコールではなく、官能基の種類や有機金属化合物としての酸性度など、金属元素だけではなく金属周辺の環境に影響されます。

ご検討の反応における触媒の選択においては、金属としてのルイス酸としての強度だけではなく、アルコキシド化合物、キレート化合物など各種の化合物を選定した上で評価いただくことを推奨いたします。

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