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2023年08月24日

テクニカルコラム

テクニカルコラムNo.9 有機チタン、ジルコニウム化合物のゾルゲル反応を用いた部分加水分解~オリゴマー化合物の合成~

テクニカルコラムNo.9では、有機チタン、ジルコニウム化合物のゾルゲル反応を用いたオリゴマー化合物の合成についてご紹介いたします。

本記事に関するサンプルのご用命、ご質問等は以下のページからご相談ください。

. オリゴマー化合物とは

IUPACでは、中程度の大きさの相対分子質量をもつ分子で、相対分子質量の小さい分子から実質的あるいは概念的に得られる単位の少数回の繰返しで構成された構造をもつものと定義されています。本稿では、2~100以下のユニットを持つ化合物をオリゴマーとしています。

. 有機チタンオリゴマー化合物を使うメリットは何か

チタンアルコキシドを使用して酸化チタン膜の形成を行った場合、マイクロクラックが発生し、膜が白化します。これは、①チタンアルコキシドの揮発、②酸化チタン膜形成時の膜の収縮等によって生じます。チタンアルコキシドのオリゴマー化合物は、分子量が大きいため、揮発せず、また、膜の収縮も生じにくい化合物です。そのため、酸化チタン膜の形成において非常に有用な化合物と言えます。

酸化チタン膜の比較画像を示します。チタンアルコキシドを用いて膜形成をすると、マイクロクラックが生じている一方、チタンオリゴマーを用いた場合では均一な膜が形成されていることがわかります。

<チタンアルコキシド>

<チタンアルコキシドオリゴマー>

<図1. チタンアルコキシドとチタンアルコキシドオリゴマーを用いた酸化チタン膜の拡大画像>

. ゾルゲル反応とは

無機、有機金属塩を出発として、加水分解、及び重縮合反応によりコロイド溶液であるゾル、更に反応を促進させることによって固体のゲルを生成する反応です。しかしながら、どのような化合物をゾルゲル反応に用いるかによって大きな違いがあります。

. どのような化合物がゾルゲル反応で用いられるか

ゾルゲル反応で用いられる化合物として、テトラエトキシシラン(TEOS)のようなケイ素アルコキシドが良く用いられています。TEOSと水が反応し、オリゴマー化合物を生成することが知られていますが、TEOSの加水分解反応速度は遅いため、酸や塩基を触媒として使用します。

上記に加え、チタンアルコキシドやジルコニウムアルコキシドもゾルゲル反応に用いられます。しかし、TEOSとは異なる反応性を示します。例としてTEOSとチタンアルコキシドの加水分解反応速度を比較すると、pH7の中性領域で、表1に示す通り加水分解反応速度に顕著な違いがあります。アルコキシド化合物を用いた方が、大きな加水分解反応速度を示すのです。

<表1. テトラエトキシシランとチタンアルコキシドの加水分解反応速度>

化合物名

加水分解反応速度(M-1S-1

テトラエトキシシラン(TEOS

5×10-9

チタンアルコキシド

1×10-3

参考文献:Sol-gel Science C.Jeffrey Brinker  Gerorge W.Scherer(1990) p.45

-1. チタンアルコキシドの反応

<図2. チタンテトライソプロポキシドの加水分解反応>

チタンアルコキシドは反応性が高いため、図2(動画)で示すように触媒を併用しなくとも水との接触により加水分解反応が急激に進行します。加えて、ケイ素アルコキシドと同様に酸触媒を使用した場合は直鎖状のオリゴマー化合物が得られ、塩基触媒を使用した場合は三次元構造体が得られる等、用いる触媒による構造制御も可能という特徴があります。

-2. ジルコニウムアルコキシドの反応

ジルコニウムアルコキシドについては、加水分解反応速度について現状不明ですが、表2で示す各金属エトキシドにおける中心金属の陽イオン性によりその速度は推測可能です。ジルコニウムアルコキシドの部分正電荷(Positive Partial Charge)が+0.65であるのに対し、チタンアルコキシドが同+0.63であることから、ジルコニウムアルコキシドの方が加水分解反応速度は大きいと考えられます。

<表2. Positive Partial Charge δ(M) for Metals in Various Alkoxide> 1)

1Sol-gel Science C.Jeffrey Brinker  Gerorge W.Scherer(1990) p.45

.有機チタン、ジルコニウム化合物のゾルゲル反応によるオリゴマー化合物の合成

ここではゾルゲル反応によるオリゴマー化合物合成について、出発原料ごとに述べます。

-1.チタンアルコキシド

チタンアルコキシド(TiOR4)は、アルコキシ基の①アルキル鎖(R)が小さい、②アルキル鎖(R)が分岐している等の条件によって、加水分解反応性が異なります。つまり、アルキル鎖が小さい、または分岐しているチタンアルコキシドを用いた場合、加水分解反応が急激に生じるため、(水)酸化チタンが生成しやすくなります。チタンアルコキシドのアルキル鎖(R)が4以上のチタンアルコキシドは、水との反応により、オリゴマー化合物が比較的得やすい化合物です。

しかし、本チタンアルコキシドであっても、チタンアルコキシド、水の両者ともに溶剤で希釈して反応を制御する必要があります。また、オリゴマー化合物を生成させるための条件としては、チタンアルコキシドと反応させる水の量も重要となります。

直鎖状の構造を考えた際、計算上では水/Ti0.5モル比であれば、二量体が得られ、水/Ti0.9モル比であれば、十量体が得られます。当社実験結果では、水/Ti1.5モル比が最大であり、このモル比以上に水を添加した場合、白濁します。当社では、このようなチタンアルコキシドの反応性を鑑みて、反応条件を制御し、2種類のチタンアルコキシドオリゴマーを製造、販売しております。

<表3 チタンアルコキシドオリゴマー:オルガチックスPC-200PC-250

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-2. ジルコニウムアルコキシド

ジルコニウムアルコキシドは、Ⅳ-2.項で示したようにチタンアルコキシドよりも加水分解反応性が高い化合物です。そのため、水との接触によって容易にゲルとなり(水)酸化ジルコニウムを生成します。したがって、1wt%以下等の濃度に希釈して反応させる、または低温化で反応を制御することが必要となりますが、このような濃度領域や低温状態でのオリゴマー生成は工業的に不適と考えられるため、代替法による反応制御が求められています。ジルコニウムアルコキシドのみでオリゴマー化合物を得ることは困難であることから、キレート化剤を併用して反応を穏やかにした上で、オリゴマー化合物を得ることが望ましいと考えます。つまり、ジルコニウム化合物もチタン化合物と同様にアセチルアセトンやアセト酢酸エチル化合物が得られることから、例えば、図3に示すようなキレート化合物(当社製品:オルガチックスZC-580)をオリゴマー化の出発物質として使用することが一案です。

ただし、ジルコニウムキレートを用いたオリゴマー化合物を用いて、酸化ジルコニウム膜を形成する際には、キレート構造を分解させるような高温での製膜が必要となります。そのため製膜する際には、ガラスや金属等の耐熱性がある基材に限定されることには注意が必要です。

<図3. ジルコニウムキレート化合物例(オルガチックスZC-580)>

. 最後に

今回は、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドを原料として使用した、ゾルゲル反応によるオリゴマー化合物の合成についてご紹介いたしました。ジルコニウムアルコキシドは、チタンアルコキシドよりもオリゴマー合成が難しいことをご理解いただけたかもしれません。これら金属アルコキシドのオリゴマーを使用することで、均一な金属酸化膜の形成が可能であり、酸化チタンの特徴である高屈折率等の機能を発現させることが可能です。ご興味がございましたら、お問い合わせください。

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