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2023年06月01日
テクニカルコラムNo.7では、有機チタン化合物を用いたUV照射による酸化チタン膜形成についてご紹介いたします。
酸化チタンは、アナタース型、ルチル型等の結晶構造を持つ化合物であり、日焼け止め用の化粧品、トナー用の添加剤、光触媒、白色顔料等として広い分野で使用されています。また、酸化チタンは2.3~2.7といった高い屈折率を持つことから、ガラスやプラスチックフィルム等に成膜して反射防止膜の一層やインデックスマッチングフィルムに使用されています。
酸化チタンをガラスやプラスチックフィルム等に成膜する方法としては、以下の2種類に大きく分けられます。
1.ドライコーティング
ドライコーティングの例をあげると以下のような方法があります。
①スパッタリング法
酸化チタンに高エネルギーを与えて酸化チタン分子を叩き出し、叩き出された酸化チタン分子を基板に付着・堆積して薄膜を形成させる方法
②MOCVD法
ガス化可能な有機チタン化合物を供給し、熱やプラズマエネルギー等で分解して酸化チタン薄膜を基板表面に付着・堆積して薄膜を形成させる方法
2.ウェットコーティング
有機チタン化合物を溶剤等で希釈し、基板に塗布した後に加熱によって有機物を熱分解と酸化させることで酸化チタン膜を形成させる方法
ウェットコーティングとドライコーティングのメリット、デメリットを以下の表で示します。
製膜方法 | メリット | デメリット |
ドライ コーティング |
・ナノスケールで膜厚制御可能 ・薄膜の均一性、緻密性が高い |
・真空装置が必要。塗布面積に制限がある。 ・製造コストが高い |
ウェット コーティング |
・容易なプロセスであり、常圧下で製膜が可能 ・大面積の塗布が可能であり、製造コストが安価 |
・廃液、排ガスの処理が必要 ・膜厚の制御が難しい。 |
ドライ法であれば、非常に高性能な酸化チタン膜の形成が可能ですが、製造コスト等を考えるとウェットコーティングの方が汎用性は高いと考えます。
上述の通り、ウェットコーティングによる酸化チタン膜の形成は有機チタン化合物が使用されます。有機チタン化合物には、チタンアルコキシド、チタンキレート等があります。チタンアルコキシドは反応性が速く、熱分解しやすいことから、酸化チタン膜形成に優位と考えられますが、化合物の揮発等によって-Ti-O-Ti-結合形成時に収縮するため、製膜時にクラックが発生しやすい化合物です。
クラックの発生を抑えるためには、反応性の制御や事前に-Ti-O-Ti-を形成することが有効な手であり、以下がその方法例です。
① ゾルゲル法によって得られるチタンアルコキシドオリゴマーを使用する。
② チタンアルコキシドよりも反応性が低い、チタンキレートを使用する。
それぞれについて概要を述べます。
チタンアルコキシドは、特定条件下で水と反応させることによって、-Ti-O-Ti-結合を有するチタンアルコキシドオリゴマーを生成します。チタンアルコキシドオリゴマーは、モノマーと比較して分子量が大きく、空気中の水分との反応性が緩やかに進行するとともに、化合物の揮発が抑えられるため、クラックのない均一な酸化チタン膜が形成可能です。チタンアルコキシドオリゴマーは、200℃以下の環境下の加熱で非晶質の酸化チタン膜をPETフィルム等の一部のプラスチックフィルムに形成させることが可能です。
一方、チタンキレートは、有機基であるキレートを熱分解させる必要があるため、300℃以上の環境下での加熱が必要となります。そのため、使用できる基材は、耐熱性の高いガラスや金属等に限定されます。
これらの有機チタン化合物を用いて酸化チタン膜の形成は可能ですが、光触媒性能を発現するアナタース結晶の酸化チタン膜は400~600℃、UV散乱等の効果が期待できるルチル型結晶の酸化チタン膜を形成させるためには、600℃以上の環境下での加熱が必要となります。このように、形成させた酸化チタン膜が結晶構造に依存する効果を発現させたい場合、より高温での焼成が必要となります。
チタンキレートは、チタンアルコキシドよりも安定であり、取り扱いやすい化合物です。チタンアルコキシドオリゴマーと比較した場合も同様であり、その取扱いのしやすさより酸化チタン膜の形成の他、様々な用途に使用されています。
その一方で、チタンキレートを原料として酸化チタン膜を生成させるには、上述の通り有機基の熱分解を目的とした高温焼成が不可欠であるといった課題があります。この課題解決に向けたアプローチの一つとしてUV照射の適用があります。
昨今、ウエットコーティングによる成膜技術において、熱硬化よりもエネルギー効率の良いUV照射によって膜を作った製品が増えてきております。
UV照射であれば、希釈溶剤や有機チタン化合物から発生するアルコールを揮発させる100℃以下の環境下での加熱によって酸化チタン膜を形成させることができるため、ポリプロピレンや、ポリメタクリル酸メチル等の耐熱性が低いプラスチック基材に対しても酸化チタン膜を形成できる可能性があります。
UV照射による膜形成としては、アクリルモノマーを使用したハードコート膜等が知られておりますが、有機チタン化合物を用いたUV照射による酸化チタン膜形成について文献が紹介されています。
本文献では、酸化チタン膜を形成させるのに300℃以上の加熱が必要なチタンアセチルアセトンキレート化合物であっても、UV照射により酸化チタン膜が形成できることが示されています。
具体的には、チタンアセチルアセトンキレートのモノマーや、特定条件で部分加水重縮合したオリゴマーを塗布した後、UVを照射することで酸化チタン膜を形成できることが示されています。
酸化チタン膜の形成に影響を及ぼすものとしては、以下の2点があげられます。
①アセチルアセトンとチタンのモル比
②モノマーとオリゴマーの構造の違い
アセチルアセトンとチタンのモル比において、アセチルアセトンが少ない方がUV照射によって分解されやすく、酸化チタン膜を形成しやすいと考えます。また、モノマーとオリゴマーにおいては、事前に-Ti-O-Ti-結合を生成させたオリゴマーを使用することで、より少ないエネルギ―で酸化チタン膜が形成されると考えます。
このように、熱分解しにくいキレート化合物であってもUV照射によって酸化チタン膜が得られることが示されています
当社でも以下のようなUV照射による酸化チタン膜形成の可能性があるチタンアセチルアセトンキレートを製造・販売しております。
アセチルアセトンとチタンのモル比変更や、オリゴマー構造などご要望に応じたカスタマイズが可能ですので、ご興味があればお問い合わせください。
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